「満月の夜に」 いずみたすく 「あ、満月なんだ…今日…」 雲一つない夜空には、まんまるな月が浮かんでいた。 千葉県某所の廃寺に封じられていた『存在』の再封印作業中。ふと 空を見上げたあたしは、満月から連想してしまった昔の自分の姿を思 いだしてしまって、少しだけ複雑な思いでつぶやいた。 背中合わせに座っていた相棒の笹原天馬が、仕事の途中に呑気な事 を言ってると思ったのか、あたしの後ろ頭をこつんと軽くこづく。 「あっ、なにすんのよー」 「『仕事中に気を抜いちゃだめ』って俺にいつも言ってるのは小夏さ んでしょーが。そりゃ『奴』が出てくるまで待ってるだけだけど、 あまり呑気な事言ってるとダメじゃんか」 たしかに、今はそれなりに手持ちぶさたではあるけれども、天馬の 言うとおり気を抜いていてよい時ではない。でも、天馬に指摘される のはちとシャクなので、言い返してみることにする。 「あんたに言われなくたって、別に気は抜いてないってば。 ただ…今日は満月なんだなぁって思っただけ」 「ふーん…満月になにかあるの?」 あたしのちょっとした言葉に何かひっかかったのか、天馬が聞きか えしてくる。その瞬間、さっき思い出していた昔の自分の事がぱぱっ と頭の中にはっきり浮かんできて、あたしの頬はぱあっと紅潮する。 (あ、まずい…) あわててごまかす。 「え?あ、あはははー。き、きれいじゃない、満月。 …さ、仕事仕事っ。もー、早く出てきてくれないかなーー?」 なんとかごまかそうとしたけど、ここ一年ほどの間、仕事の時は必 ずいっしょに行動していて、最近は…その、お互い恋人同士として認 識するようになっていたりする天馬は、こんな言葉ではごまかされて くれなかった。 「小夏さんは全部顔に出るからバレバレなんだよ。 なに?赤くなってるってことは、なにか俺に言えないよーなはずか しい思い出でもあんの?」 そしてちょっといじわるそうに笑う。 いつもだったら、天馬がこんな表情をしていたら、殴りとばしてた けれど、でも、この時のあたしは…なさけないことに、痛いところを 突かれてむちゃくちゃ動揺してしまった。 「えっ、あっ、ちがっ、ちがうってばっ!」 ぷいっと横を向いてごまかす。 でも、ますます頬は紅く熱くなってゆく。天馬とあたしはもう『清 い関係』ではないのだけれど、それでも、自分のしてたはしたない事 がばれてしまったら天馬はどう思うだろう…と、思わず、イメージの 中でだけど、あたしは頭を抱えこむ。 「小夏さん…パートナーの俺に隠し事?」 「だって…話したら…軽蔑するよ、あんたは、あたしのこと…」 「俺が小夏さんのこと軽蔑するわけないでしょ? …ま、どうしても俺には言えないならそれはそれでいいけどさ」 といって天馬はちょっと悲しそうな顔をする。いつもだったらこん な表情は『罠だ』と直感で気付くけれど、もちろん今のあたしはそん な状態にないので、あわててしまう。 「ああうう、も、わかったわよっ、 で、でも、話すのはあんただけなんだからねっ」 思わずそう告げると、天馬はさっきの表情なんかなかったかのうよ うににまっと笑う。そう、あたしは墓穴を掘ったのだ。そして、あた しは、三年ほど前の頃のあたしの…あたしだけの秘密のはずかしい行 為について話す羽目になってしまった。 「え、えと…… 兄様が当主になった頃だから…三年ぐらい前の話なんだけど…」 * * * 満月の夜。 夏も過ぎ、秋が近くなってきている。 今日も、兄様は仕事で家にいない。 去年、二十歳の若さで天童の当主となった兄様は、当主の仕事と、 使い手としての仕事で忙しい。葛木の家で起こった「事件」から三年 が経って、あたしの心の傷が癒えてきたと感じたのか、兄様は家を空 ける事が多くなっていた。 でも、あたしは立ちなおってなんかいない。 大好きだった祐兄。親友だった奈月ちゃん。その双方を同時に失っ た傷は、日頃忙しさの中に目をそらして見ないようにしている時なら ともかく、こうして深夜の広い家の中でひとりでいると、じくじくと 血を流して、あたしの心を狂わせる…。 だからあたしは----。 その時、時計が夜11時を打った。 うち--天童の家は、兄様もあたしも仕事でいない事が多いので、そ の大きさにもかかわらず、住み込みのお手伝いさんはいない。だから、 夜がすっかり更けたこの家にいるのはあたし一人だ。 母屋の灯を全て消して、道場に向かう。さっきお風呂に入ったばか りのはずのあたしの服装は、薄めのデニム地の半袖シャツと膝上10cm ほどの黒いミニスカートに紺のニーソックスという外出着だ--そう、 いつものように。 あたしは明かりをつけずに道場に入る。満月なので月明かりが差し、 明かりをつけずとも道場の中はぼんやりと見渡せた。あたしは、月あ かりが差すところにある、大きな鏡の前にイスを持ってきて腰かける。 そう--いつものように。 そして、満月の晩にいつもするように、あたしは----。 「ん…」 自分の両手でやわらかく両胸をさすりあげると、ブラ越しにさきっ ぽが刺激されて、思わず声が出てしまう。十四歳になったあたしの胸 は歳相応以上に成長していて、シャツとブラ越しに自分で触れてもこ こちよいやわらかさを持っている。感蝕に酔うようにふにふにと揉み あげてゆくと、自分でもさきっぽが立ちあがってゆくのがわかる。 そしてあたしは、これもいつものように、自分がどうなってるかを 鏡で確認して、その様子を現実にはいない誰かに説明する。 「あ…さきっぽ、とがってきてる…。 は、はずかしい…けど、きもちいい……」 体の奥で感じる快感と、自分ではしたない事を口に出すことで、あ たしは、だんだんぼーっとしてきて、声も手も止まらなくなってゆく。 下からもちあげるようににして、やわらかなふくらみを揉みあげ、二 枚の布地ごしにさきっぽをさする。 「ふ…んんっ…ん…ん…ん」 「や、もっと…もっと…んんっ」 布地越しのささやかな刺激がもどかしくなったあたしは、ぷちぷち とシャツのボタンを外して、シャツの前を開く。細かいレースをあし らった白いハーフカップのブラが月明かりに浮かびあがり、その中心 で持ちあげるように赤く固くなったあたしのさきっぽ--乳首がうっす らと見える。 「こ、こんなに…赤く、とがって…あ、あたし--小夏のおっぱい…や らしいの…」 そう言ってから、自分で自分をじらすように、中心のまわりをくる くると指先でなぞる。そうやっているうちに乳房全体が張りつめてゆ き、乳首は『さわってほしい』と自己主張するかのようにますます固 く立ちあがってゆく。その光景と、自分の『焦らし』に耐えられなく なったあたしは、両胸のさきっぽを両手の親指と中指できゅっとつま みあげる。待ちわびた刺激にあたしの腰は思わず跳ねあがる。 「んんんんっ!あ、ち、ちくび…きもちいいの…っ」 きゅっきゅっと、しこった乳首を根元から絞りあげてゆくと、だん だん、腰の下あたりがじんわりと熱くなってゆく。濡れてきた--その 事実にあたしはさらにぼおっとなる。もう胸だけの刺激では我慢でき なくなって、右手を胸から外して、自分のスカートの中に入れて、秘 めやかな部分に触れる。『そこ』はもう、はしたないほどにぬるぬる のシロップをたたえていて、下着の上から指で擦ると、にちにちとい やらしい音がする。 「あ、んん、も、もう、びしょびしょ…」 「こ、小夏、やらし…いの、で、でも、あっ、きもちい…」 あたしは夢中になって、しばらく胸と『そこ』を両手でいじめる。 すっかり愛液を吸いこんだ下着は、その下の器官のかたちを乱れたス カートの裾越しに月明かりの下の鏡に浮かびあがらせ、『そこ』を守 るというその役目を果さなくなっている。 「わかる…かたち、ゆびでなぞると…わかっちゃう…ふあぅっっ!」 顔を上げ、鏡を見る。ショートの前髪を汗でおでこに張りつかせて、 シャツを半分脱いで、スカートの裾を乱れさせた姿で、快感に蕩けた 顔をしている少女が見える。あたしにはその瞳が『そこ、見せてほし い…』と言ってるように見えた。 「あ、小夏の、ここ、見たい……の?」 あたしは口のなかに溜った唾液を「こくん」と飲みほすと、鏡の中 の女の子--はしたない自分--に、自分のしてほしい事を言う。 「はあっ、ん、んん、ん……こ、小夏も、見て、見てほし…ぃの」 『見てほしい』--そのことを自分の口に出して、ますます私の頭の 中と、あたしの『そこ』はとろとろに蕩けてゆく。 熱にうかされるように、汗に濡れてちょっと湿ったブラを外し、ほ とんど全体が濡れて脱ぎにくくなったパンティを下ろす。そして自分 がやろうとしてることのはしたなさに震える唇に、持ちあげたスカー トの前の部分をくわえさせて、羞恥と快楽の予感に震えながら、両足 をMの字にゆるゆると開いてゆく。 「ああ、見えちゃう…濡れて、ひらいて、ああ…見えちゃうよぉ…… 小夏の、やらしいとこ、ぜんぶ、見えちゃうよおっ」 あたしのまだ薄い秘毛は、たっぷりのシロップに濡れて肌にはりつ いてしまっていて、鏡にうつる『そこ』が薄暗い月明かりを受けて、 はっきりと浮かびあがる。秘めやかなはずのそこが、もうほとんど全 て外気に触れてしまっている事を理解して、また震えてしまう。 「ああ…じ、充血して…くちゅくちゅになってる…。 …く、クリトリスも、とがって……ああ、い、いやらしい、の…」 自分の体を熱くするためだけに、あたしの口はいやらしい言葉を紡 ぎつづける。もう、止まらない。 淫蕩な熱にうかされたあたしは、もっと奥を『見せたく』なってし まう。欲望に突き動かされるように、あたしはよろけながら椅子から 立ち、汗と愛液で汚れてしわくちゃになったスカートをぱさりと床に 落として、鏡のほうによろよろと歩く。ニーソックスだけをまとった あたしが一歩足を進めるたびに、くちゅりとぬめる音が響く。 あたしは、溢れる愛液で、ニーソックスのかなりの部分の色を濃く 変えた後に、やっと鏡のほど近くに体を横たえる--鏡の方を向いて。 そして、期待と興奮にどきどきさせながら、足を開き、腰を持ちあ げ、つまさき立ちになる。 「は、はしたない、小夏のあそこ--おまんこ…っ、見て、見てくださ い……っ、ああっ」 そして、両手を期待に震える大陰唇の両側にそれぞれあて、そして、 意を決して両側に開く。あたしの頭の中だけに『にちゃあ』といやら しい音を響かせて、あたしの大切な『そこ』が、月明かりの下に完全 にさらされて、鏡に--そしてその中に写るあたしの目に向けられる。 「ああっ、びらびら…充血して…開いてるよぉ…っ。 あああっ、もっと…もっと奥まで見て…あふ…あ…ああっ」 あたし自身の言葉に反応するように『そこ』がひくんと動き--とぷ ん、と--また、あたしの頭の中にいやらしい音を立てて、ちょっと白 濁したはしたない液体が吐き出されてゆく。 両手で完全に現わにされた『そこ』の中心より上の部分に、固く立 ちあがっている『さきっぽ』をつつむやわらかいカバーを、右手の指 先でくるりと剥きあげる。そして、ぬるぬるの愛液でたっぷり湿らせ た指先で、かるくくりくりっとそれをいじめる。 「っ!んーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」 その刺激の強さに、あたしは登りつめそうになる。充血しきったあ そこから愛液をほとぱしらせ、道場の床まで汚してゆく。 頭の中はすっかりと熱くなってわけがわからない。でも、本能と体 が求めるままに、愛液の『吐出口』に中指を軽く突き入れて、くにく にっと動かす。入口近くをカギ形に曲げた指で刺激しながら、あまり 濡れていない手のひらで、とがりきったむき出しのクリトリスをくり くりっとこする。頭のなかに、また、ぱぱっと白い閃光が走る。 「あ、あ、イくっ、いくよおっ…… 見て、見てて…ねっ、イくとこ、見ててぇ……っ!」 あたしの制御を離れた指が、ぴちゃぴちゃっとやらしく水音を立て てながら、充血しきった膣の中とクリトリスを刺激してゆく。そして こりっと強く両方を刺激した瞬間、ついにあたしの頭の中はまっしろ に塗りつぶされる。 「あ、あ、あ、いや、あ、イっちゃ…あっ、あ、あ、ああ、イく、あ あ、ああっ…はあっ、ああーーーーーっ」 いやらしく熱いしぶきを鏡にとびちらせながら登りつめたあたしは、 快楽の余韻に未だ体を震わせながら、すうっと意識を沈ませていった。 しばらく--あるいは数分だったかもしれない--後に、あたしは意識 を戻す。秋のちょっと肌寒い空気が、あたしの体をおおっていた熱気 をすっかり冷めさせていて、思わずぶるっと震えてしまう。 そして、あんなに熱くぬめっていた、でも今は冷えて固まりかけた 愛液を、指や、体や、床から拭きとってゆく。なぜだか溢れてくる嗚 咽をこらえながら。あたしは--なんで、こうなんだろうと考えながら。 * * * あたしは下を向いて、「なにをしていたか」だけを--もちろんディ テールは大幅に割愛して--ぽつぽつと話した。話し終わったあとに、 天馬の顔にどんな表情が浮かんでいるのかが確認したくて顔を上げる と、天馬は右手で口元とアゴを押えて複雑な表情をしていた。ちょっ と顔が赤い。 「な、なによお…」 「あ、いや、ちょ、ちょっと--予想以上の話だったんで--あは、は」 天馬のその言葉に、あたしは頭にぱあっと血が昇る。さっきまで思 い出していた昔のように、快感のためではなく、怒りのために。 「あ、あんたが話せっていったんじゃないっ! いいよ、もう!…あたしはやらしいコだって軽蔑すればいいよ!」 あたしの反応に対して天馬が焦ったのがわかったど、自分でももう なんだかわからなくてもどうにもならない。 「こ、小夏さん!違うってば!」 「違わない!こんなやらしい娘は嫌いだって言えばいいじゃん!」 「…ええい、もおっ」 天馬があたしの体をぎゅうっと抱きしめる。ほとんど錯乱しかけて たあたしは、その腕と胸の強い感蝕にちょっと冷静になる。でも、今 度は涙がぽろぽろ溢れてきてしまう。 「とにかく落ちつけってば」 強くあたしを抱きしめたまま、天馬が私の耳許でそう言う。 「ぐす…だって……あたし……あんな……」 「昔の話だろ?」 「ちが…うの、あたし、今でも……」 「え?」 頬がほてってくる。でも、天馬にだけは、言わないといけない事。 「今も、同じなの、あたし、いやらしいの……こうやって天馬に抱き しめられちゃうと……じわって……濡れちゃうの……」 「……」 天馬の無反応さにちょっと不安になる。 「…なんか、言ってよ……」 そう言って、上目づかいで無言のままの天馬を見上げると、天馬は、 あたしではなくまっすぐ遠くを見ていた。あたしの声が震える。 「…天馬……?やっぱ、イヤなんだよね……こんなコ……」 でも、天馬の返事はちょっと意外なものだった。 「小夏さん、出たぞ」 「…えっ?」 天馬の言葉の意外さに、あたしは頭の中がまっしろになってしまう。 そんなあたしの様子に気付いたのか、もう一度天馬はあたしに状況の 説明をしてくる。 「『奴』が動き出した。魔剣抜く準備して」 「…あ、え?ええっ?」 状況は一応了解したけれど、あたしの頭の中はまだ切りかわりきっ ていなかった。すると、天馬はそんなあたしを見て、ふっと笑って、 あたしの耳許でささやいた。 「そーゆー小夏さんも、俺は好きだよ。 だから、さ。宿に戻ったら、小夏さんのことじーーーっくりかわい がってあげるから、ここはさっさと仕事と終わらせちゃおうぜ」 天馬はそう言って、あたしの頬にちゅっと口づけると、いつのまに か召喚し終っていた自分の魔剣を手に、封印の場からもぞりと動き出 した『奴』に切りかかっていった。 天馬の言葉と行動に、さっきとは違うはずかしさに顔を火照らせつ つ、あたしは、あたしの魔剣を呼ぶ。そして、天馬の動きに合わせて 『奴』に切りかかってゆく。 「ありがと、だいすきだよ…天馬」 そんなことをつぶやきながら。 おしまい