『ひな』のいる風景。 いずみたすく 0. Prologue --口は災いの元-- 春。 あったかい日差しの中、窓際の席で僕はうーんと背伸びをする。 「んー、いい天気だなぁ」 僕の名は葛木祐。この春修士課程を修了し、勢いで博士課程に進ん だぴちぴち(?)のD1学生だ。今年25歳になるんだけれど、外見やら 言動やらのせいで20歳以下にも見えるらしい。困ったものだ。 新しくうちの研究室のものとなったこの狭い部屋には、いまのとこ ろ僕だけしかいない。本来この部屋は新4年生と新博士課程1年の僕 に割りあてられているんだけど、4年生は研究室所属が決まってない ので、僕一人だけなのである。 そんな僕以外に誰もいない部屋で、どうにも進まない輪講のレジュ メを編集中の Emacsを横目に見つつ、僕は NetHackにいそしんでいる。 「忙しいほど NetHackが進むって話があったなぁ…」 一時間後、僕の@がTにかこまれ瀕死になっていたときに (そう、 僕は NetHackが下手なのだ)、入口のドアがこんこんと叩かれた。画 面に向かったまま「どうぞー」と言うと、ぞろぞろと3人ほど入って くる。みんな見慣れない顔だ。さすがに画面に向かったままってわけ にもいかず、 NetHackは中止することにして、席から立って何の用か 訊いてみる。すると先頭ののっぽ君がとぼそぼそっと言う。 「あの、こんど本山研に所属になった4年生なんですけど…」 なるほど。 そういえば本山先生が「今日くるよ」と言っていたっけ…。 「あ、はいはい、この部屋にくる新B4のヒトたちだね。 ふむ…えーと、先生からだいたいの説明はうけた?」 と僕は彼らを部屋に招き入れる。僕の質問に対しては、みなこくこ くとうなずいたので、さらに自分の自己紹介を続ける。 「えーと、本山研D1の葛木です。えーと、この部屋にみんなといっ しょにいることになると思いますんで、ま、よろしく」 と言って会釈すると…うう、なんだかみんな恐縮してるようだ。 「ええと、みんなも自己紹介してくれるかな?」と僕。 最初ののっぽ君--水無月君だそうだ--と、長髪君--田中君--と自己 紹介が進み、最後の娘…身長は 140cmそこそこ、おかっぱ、くりくり の目、ぷにぷにって感じのほっぺた。うーん、かわいい。でも、大学 4年生にしてはずいぶん小さいような……と、そう思ったはずみで、 「くすっ、なんか中学生って感じだねー」 と、言葉が出てしまう。まずい、と思ったがすでに遅い。 ぱぁん! 火花が散った。いや、ほんと。 僕はその娘に平手打ちされてた。ぼーぜんとする僕の前で、彼女は きっと僕を睨みつけ、 「4年生の南方(みなかた)ひなです!中学生じゃないですっ!」 と強く言い、そのまま僕を睨んだままぽろぽろと涙をこぼす。水無 月君と田中君がおろおろしつつ南方さんにフォローを入れてるのは視 界に入っていたのだけれど、僕は、あやまるどころかぼーぜんと立ち つくすことしかできなかった。 僕と彼女の出会いはこんな感じだった。 彼女の、僕の第一印象は最低だったに違いない…と、そう思う。 1. はじまり。 季節(とき)は梅雨に入る頃。 じめじめと雨が降りつづける日のこと。 僕は論文誌への投稿用に修論+αな論文の手直しをしていた。 こういう物は気合いが入らないとなかなか進まないのだけど、じめ じめした天気のせいか、僕がふぬけてるのか知らないが、どうにも頭 が働かない。 (コーヒーでも淹れて休憩するかなぁ)  と、背伸びしつつ時計に目をやると、ちょうど19時をまわる所だ。 本来は「まだまだこれから」の時間だけど、部屋には僕以外にはも う一人いるだけだ。他の部屋には僕と似たような境遇の奴等がいるは ずだけど、なんとなく、二人だけしかいない気分になる。…人の少な い夜の部屋ってのはなんだか淋しい感じ。 (まぁ、6月だとまだB4は早く帰るからなぁ) (うーん…残ってるのは南方さんかぁ…) 同じ部屋に南方さんと二人だけでいるのはちょっと息苦しい。 4月のあの件以来、彼女は僕と目が合うとさっとそらすし、話しか けようとすると、ふっといなくなるしで、どうも避けられているらし く、だんだん僕も彼女を苦手に思うようになっていた。 やかんをコンロにかけて、お湯が沸くのを待っている間、なんとな しに南方さんを眺めていると、ディスプレイを見て考えこんだり、何 かのコピー(おそらく英語論文だろう)を見ては考えこんだり、キー ボードを叩いては考えこんだりしている。 (…?何か悩んでるんかなぁ?) そういえば彼女って明日の輪講当番だったか。 (最初の輪講ってわけわかんなくて大変なんだよなぁ) 論文の内容について質問したり、わからないところを聞いたりと、 同じ居室のD2の先輩にやたらめったら迷惑をかけまくったっけ、と、 過去の自分を思い出して苦笑いする。 そんな事を思い出したせいで、その時の先輩のように、僕も、B4の コの手助けをしてあげるべきなんだろうなぁと思いあたる。そもそも D1の僕がB4のコたちと一緒の部屋になってるのはそういう意味もある んだろうし。それに…。 (避けられてるにしても女の子が困ってるのをほっとくのも男として 何だよなぁ…) 数分ほど頭の中で悩みのコサックダンスを踊った結果、僕は彼女に 声をかけることにした。餌付けってわけじゃないけど、南方さんの分 のコーヒーも淹れて、そして彼女の席の横に立つ。ちょっと深呼吸し た後に話しかける。 「えと…悩んでるみたいだけど、何かわかんない所でも?」 僕が横にいたことに気づいてなかったらしく、ぴくっとして僕を見 上げて「…あ」と声を漏らす南方さん。あれ?なんかすがるような目 だな。濡れねずみになってる迷子の猫の目って感じ。睨まれたり、目 をそらされたりするかもと思ってたので、ちょっとだけ安心して、僕 は話をつづける。 「んーと、何か僕にできることある?」 …結局彼女は輪講のテーマに悩んでいたらしい。 「うーん、もうちょっと聞いてくれたらちゃんとアドバイスできたの になぁ…」 と、僕がぼそっと漏らすと、 「あ、で、でも、初対面のときに先輩に失礼なことしちゃいましたか ら、えと、そ、その…ずっと、話しづらくて、その…」 と南方さん。 「あ、いや…初対面で失礼な事言ったのは僕だからさ、あれは叩かれ て当然だよね。うん、ほんと、ごめん」 「い、いえ、『中学生みたい』なんてのはほんとはよく言われるんで すよ。わたしってこんな外見ですから。でも、その…あのときは、 なんかちょっと緊張しててわけわかんなくなって、あの、そのぉ…」 南方さんはまっかになって、笑顔だけど「あせあせっ」て感じで右 手をぱたぱた振ってる。 (…こういうしぐさをすると外見に似合ってかわいいなぁ) かわいいけど、でも、このままでは話が進まないので、むりやりこ の場を納めることにしよう。 「え、えーと、じゃあ、どっちも悪かったって事でいいかな?」 「あ、は、はいっ!」 ほんと、我ながら無理矢理だと、内心にが笑いしたり (^^; そして、僕は南方さんの席の横にイスをもってきて腰をおちつけて、 二人でさっき淹れたコーヒーを飲みつつ、彼女の当面の課題について 相談することにする。 「とりあえず明日の輪講で何をやろうとしてたのか見せてくれるかな」 と言って、とある論文(むろん英文だ)を見せてもらい、ぱらぱらっ と読む。…うーむ、ちょっとB4で論文紹介するモノとしては重そうだ なぁと思ったので、そのことを伝えてみる。 「うー、良さそうかなぁと思ったんですけど…」 と南方さん。うん、テーマ的にはけっこう合ってるんだけど。 「うん、内容はおもしろそうだけど、理解するのに必要な知識がかな りあるんだよね、これ。読んでみて、どれくらいわかった?」 「あぅ、えと、…50%くらい?って感じです」 南方さんは首をちょっとかしげてから、そう答えた。 僕に対して4月以降持っていた緊張が解けたのかなんなのか、今ま での印象と違って、やたらとかわいい口調や仕草を見せてくれている。 (やっぱ、もともとはこういう娘なんだろうなぁ…) そう思った。 「半分ね…ふむ…。 だったら、今さら変えるよりは、これで行っちゃったほうが楽かな。 ええと、今…7時半か。何時までこの研究室にいられるかな?」 「あ、えと、何時まででも一応は…一人暮らししてますから…」 僕の質問の意図が掴めないのだろう、ちょっと疑問符を頭に浮かべ つつって感じで南方さんが答える。 「うーし、じゃ、自称葛木センセの講義っつーことで、 南方さんがわかんないところをじっくり教えちゃいましょう!」 と言って、ぽんと胸を叩く。びっくりする南方さん。 「あの、でも、先輩も忙しいからこんな時間まで残ってるんでしょう から、その、あまり手間をおかけするのも…」 「いーのいーの、ここで南方さんに手を貸さないと、気になっちゃっ てかえって作業も進まないよ。それに、ほら、こーゆー時に役に立 つように僕は君たちB4と同じ居室になってるんだし、ね。 それにね、僕は他人に教えるのって好きなんだ。だから、おとなし く教えられること、ね?」 ちょっと考えこんだあと、南方さんは、笑顔になって、ぴょんと立 ちあがる。そして、「おねがいしますっ!」とぺこっとおじぎする。 (う…か、かわいい…) と僕はちょっとどぎまぎ。 そして、僕の南方さん向けのレクチャーがはじまった。 * * * まず必要な基礎知識の説明をすることにした。 なるべく噛みくだいて、わかりやすく説明しようと努力する。そし たら、とっても熱心に聞いてくれたり、わからないところを質問して くれたりしたので、僕も熱が入っていろいろ教えてしまう。 打てば響くように、南方さんにちゃんと説明すると、ちゃんと理解 してくれるのを見て、 (外見は幼いけど、やっぱちゃんと大学4年生だなぁ) と、もし口に出してしまったら、また叩かれそうなことを考えてし まったりして苦笑したり。 2時間ほどで「講義」が終わらせたあと、のりかかった舟とばかり に、彼女のレジュメ作成の手伝いもする。彼女は TeXや Emacsに慣れ てないようだったので、これらについてもいろいろ語ってしまった。 それで、やっとなんとか明日発表できるかなぁって内容になったの は0時をまわってからの事だった。 「ふーっ。うん、これで明日の…っと、もう今日だね…輪講発表はな んとかなるかな?」 「はい!先輩、どうもありがとうございました!」 と、さらさらおかっぱの髪がぱさっと揺らして、南方さんがぺこっ とおじぎする。B4だから22歳にはなってるはずなのに、このかわいさ は反則だ。「中学生みたい」なんて言ってはたかれたけど、もしかし たら、幼く見えるのって、彼女にとってすごくプラスなんじゃないか、 とさえ思う。 それにしても、今日は彼女のかわいい所をいっぱい見せてもらった。 今日まで彼女が苦手だったってのが、ほんと、ウソのようだ。 さて、もう12時をまわってるから帰ろうかってことで、また南方さ んに話しかける。 「さて、そろそろ帰ったほうがいいかな。 家ってどこ?送ってくよ。残念ながら徒歩だけどね」 「あ、はい、家は大井町線の…って、あっ!」 「ど、どうしたの南方さん」 南方さんはあうあうって感じであわててる。どうしたのかな。 「あ、あの、終電…すぎちゃってますよね、この時間って」 「あ…え?もしかして、もう帰れない?」 「あうぅ、そうなんです。 …あ、でも、この部屋にも泊まれば大丈夫、かな?」 ううむ、『講義』が長すぎたかな。思わず知らず熱入ったからなぁ。 しかし…泊まるから大丈夫って言っても、研究室共用のベッドは汚い から、女の子寝かすのはちょっとなぁ…と、そーだ。 「あのさ、僕の家がこっからすぐそばなんだけど、僕はこの部屋で寝 るからさ、僕の部屋の方に泊まっていくといいよ」 「え、あ、先輩追い出して眠るなんて、そんなことできませんよぉ」 あわてて、両手を広げてぱたぱたと振って断る南方さん。 「いや、かまわないって。俺はこの部屋のベッドで仮眠とるのは慣れ てるし、まさかこんなところに嫁入り前の女の子を一人に寝かせる わけに行かないしさ。ね、さ、行こう!」 と、ほっぽっとくとこのまま動かないだろう南方さんを動かすため に、その手をとって部屋を出る。 …南方さんの手は小さくて、なんだかあったかい。 どきん、とする。 * * * 大学の門を出たあと、二人とも黙って夜道を歩く。 雨は霧雨になってる。ちょっと冷たい、そんな雨。 その雨の冷たさを理由に、南方さんの手を取ったまま、でも傘は差 さずに、歩いている。 研究室では明るくしゃべってくれてた南方さんだけど、今は何か 言いたそうに、僕を見たり、つないだ手を見たりしながら黙ってる。 しばらくして、南方さんが僕に話しかけてきた。 「あの、せんぱい?」 「あ、な、なに?」 このとき、僕は、南方さんの手のあったかさにぽーっとなっていた。 24歳にもなってなさけないけど、ほんと、その小さな掌のあったかさ にどきどきしていたんだ。 「あの…初対面の時に先輩をぶっちゃったときなんですけど」 「あの話はもう終わりってことにしたでしょ?」 と、苦笑しつつ南方さんの顔を見ると、南方さんは真剣な顔でふる ふるとおかっぱ髪をゆらせて横に首をふる。そして言葉をつなぐ。 「あのとき、先輩にひとめぼれっていうか…そんな感じだったんです。 それで、ぽーっとなってるときに、あんなこと言われたから、わけ がわからなくなって、そしたら、ぶっちゃってたんです。 …あんなこといわれて、嫌な人だって思おうとして避けてたけど、 でも、この 2ヶ月、やっぱり先輩はみんなにすごくやさしくて、そ したらやっぱ好きだなって思って、でも失礼なことしちゃったから、 何も言えなくなっちゃって…。 あ、へ、へんですよね。いきなりこんな事言って…。 わ、わたしって、先輩が言うように中学生みたいだから、先輩がわ たしなんかを好きになってくれるわけないし、今までだって、それ でいっつもフラれてたし…。 あ、な、何言ってるんだろわたし…あ、や、やっぱりわたし、学校 にもどって研究室で寝ますから、先輩はこのまま帰って…」 最初の言葉を聞いたあとは、どきどきしてよく聞こえなかった。今 日、僕にいろんな面を見せてくれた南方さんに僕は魅かれていたから。 --捨てられた猫のような目で僕を見上げる南方さん。 --わからなくて「あうぅ」と頭をかかえて悩む南方さん。 --「ええっと」とほっぺに手をあてて考える南方さん。 --理解できて、「にぱっ」って感じで笑う南方さん。 --たしかに、子供っぽく見えるけど、でも、かわいい…。 きゅっ。 彼女の言葉が終わる前に、僕は南方さんを抱きしめてた。 「あっ、あのっ、せんぱい!?」 「…かわいい」 「えっ?あの、あのっ」 「あ、えーと、一目惚れって本当?」 不器用な話ではあるが、結局僕はこういうふうにストレートにしか 言えないヤツなのだ。でも、それに南方さんは応えてくれる。 「あっ、は、はい。…ずっと好きでした。 でも、今日お話しして、もっともっと好きになりました」 きゅっ。南方さんからも両手で抱きついてくる。 あう、かわいい…。 「………僕も、南方さんを好きみたいだ」 「えっ?」 僕の胸に伏せていた顔を上げて、僕を顔を見る南方さん。 その顔を見て、僕は、言葉がうまく出なくなる。顔が赤くなる。正 面から南方さんの顔が見れなくなる。でも、なんとか、今の僕なりの せいいっぱいの言葉をつむぐ。 「あの、南方さんは、笑ったり、困ったりする顔とか、いっしょうけ んめいなところとか、まじめなとことか…すごく、かわいいと思う よ、僕は、うん。なんか、今日いっしょにいて、すごく、そう、す ごく魅力的だと思ったよ」 あれ?僕も変な事言ってるかな。でももう止まらない。 さっきまでの掌のあたたかさと、今感じる身体のあたたかさと小さ さ、もう「ぶわっ」とばかりに思いがあふれてくる。 勇気を出して、また南方さんを正面からみつめる。彼女も、ちょっ と涙を浮かべて、でも、僕をまっすぐ見てる。僕は、言葉を続ける。 「えと、こんなこといきなり言っても信じてくれないだろうけど、僕 も、南方さんの事、好きになっちゃったみたいだ」 いきなりの気持ち。でも一片のウソもない、そんな気持ち。 「せんぱい…」 二人ともなにも言えなくなって、霧雨の中抱きあうだけ…。 2. いっしょにいよう。 そして、僕の部屋に着く。 霧雨とはいえ、傘もささずにいたので、二人ともちょっと濡れてる。 「あ、えーと、シャワー浴びたほうがいいかもね」 そう言うと、南方さんは顔をまっかにして、こくんとうなづく。 「あ、着替えは、んーと、僕のでてきとーにみつくろうけど、それで いいよね?」 これもこくんとうなづくだけ。 僕の部屋に入ってから、南方さんは極端に無口になってる。 南方さんがシャワーを浴びてる間、南方さんが着れそうできれいな Tシャツとかをみつくろって、ユニットバスのドアの前に置いたあと、 ベッドのシーツを替えたり、まわりを軽く掃除したりする。 しばらく後、南方さんがぱたんとシャワーから出てくる。上気した ほっぺたがすごくかわいい。どくんどくんとヤバい衝動にかられそう になって、あわててベッドから離れる。そして、 「このベッド使ってね。んで、カギは研究室にもってきてくれればい いし、何だったら郵便受けにでも入れておいてくれればいいから… じゃ、おやすみ」 と一気に言う。 (これ以上いっしょにいたら、きっとがまんできないもんな…) そう思いながら玄関に向かう僕の背中に、南方さんが「ぎゅっ」と だきついてきた。部屋に入ってから一言も発しなかった南方さんの、 この時の背中ごしに聞こえた言葉に、本当にどきん、とした。 「せんぱい…いっしょにいてほしい、です…」 もう、止められない。 ふりむいて南方さんを抱きしめる。 「いいの?止められないよ、僕は、たぶん」 南方さんは、こくんとうなづいて、答える。 「…先輩が、好きなんです」 * * * 僕はベッドに南方さんをすわらせて、そして彼女に呼びかける。 「南方さん」 南方さんは小さく、「"ひな"と呼びすててほしい」とささやく。 「うん。…ひな、かわいい」 ぽおっと、ちょっとうっとりした顔になるひなに、ちょっぴりいじ わるかも?と思いつつ、僕も「お願い」してみることにする。 「でも、だったら、ひなにも僕の事を名前で呼んでもらわないとね。 『祐』とか、『祐くん』とかって。だめかな?」 ひなは、ちょっと考えてからかぁっと赤くなる。 いや、そんなに赤くなられると言った僕もはずかしいんだけど…。 「え、あ、あの、先輩。そんなの言えませんよぉ」 「『先輩』じゃなくて、『祐くん』ね。はい、言ってみる!」 「え、ゆ、ゆ、祐くん、好き…」 (うわ、こ、これ、すげー照れる…) 言われた僕も言ったひなも盛大にテレる。僕はテレ隠しにひなと唇 を重ねる。ちゅっと軽い音をたててながら、何度も重ねなおす。 「ふぅ」 「…はぁ」 ふっと、唇をはなし、ひなをみつめる。あれ、涙ぐんでる。 「あれ?どうしたの」 「あ、うん、あの、ファーストキス…」 「えっ?」 びっくりする。だって、ひなだってもう22歳なんだし…。 「だ、だって、わたし、外見こんなだから、同級生とかから見向きも されなくて…。えと、あの、その、だから、祐くんがぜんぶ、はじ めて…」 どうにも愛しくなって、ひなのことをぎゅっと抱きしめる。 そして、そのままぱたんと、ベッドの上に倒れこむ。 「…いいね?」 「…はい」 ひながはおっていた Tシャツを脱がせる。もう下着だけになってし まう。彼女らしい清潔な白い下着。 下着の上から彼女の胸に触れる。さっき抱きしめたときにも思った けど、ひなって身体ちっちゃいけど、けっこう胸あるんだ…僕はブラ のレース飾りにそって指先を走らせる。 「…ん」 ちょっと鼻にかかった吐息をあげるひな。僕は、その反応に気をよ くして、下着越しでも指先にちょっと感じる『さきっぽ』をくりくり と指でいじる。するとひなが身体をぴくんとさせる。なんだかしあわ せになって、ひなの胸を掌全体で軽くつつみこむようにする。あ、す ごくどきどきしてるなぁ…ちょっと心配になって話しかける。 「ひな、大丈夫?」 「あ、だ、大丈夫っ、ですっ」 堅くなってるなぁ。なんとかリラックスさせないと…っと思っても、 僕もそんなに慣れてるわけじゃないので、何していいのかわからない。 とにかくなにか話しかけてみることにする。 「ひなのおっぱい、やわらかいね…」 「あう…そ、そんなこと言わないでくださ…くふっ」 あ、なんか感じてくれてるのかな…うれしくなって、ちょっとだけ 力を増して揉むようにする。たまにブラ越しに感じるさきっぽも刺激 するようにする。 「ん、ん、ん、んふっ」 ひなは目を閉じて眉をちょっとしかめて、ひかえめに、でも感じて るって声をあげてる。上気してまっかになったほっぺたがかわいい…。 そろそろブラ越しじゃなく、直接触れたくなる。 「はずすよ、ひな」 ひなは何も言わずにただこくんとうなづいただけだったけど、僕を 手伝うように、背中をもちあげてくれる。…ちょっと手まどったけど、 ほどなく、ひなの胸が現わになる。 白い、ほんとに白いひなの胸。身体のサイズからするとけっこうボ リュームはあって、そのくせ、ブラを外してもほとんど形が崩れてい ない…僕は思わず嘆息する。 右胸にちゅっとキス。そのあと乳暈の部分にくるくるっと舌先を走 らせると、ぴくぴくっとひなは体をふるわせる。舌でを胸のラインの 下の部分をなぞったり、さきっぽを口に含んだりさせつつ、左手でひ なの胸をくにくにといじる。空いた右手がやわらかな胸、おなかを経 由して、最後に残った布の上を走る。 口と左手で『さきっぽ』をいじられると、むずがるように吐息を漏 らしたりしてたひなだけど、『そこ』の上に僕の右手の指先がたどり つくと、ぴくっと一瞬体を固くする。やっぱ怖いんだろうなぁ…。 「僕を信じて、ね?」 なんとか安心させようとして、そう耳元でささやく。そして、最後 に残ったものをするっと脱がして、ひなを生まれたままの姿にしてし まう。『そこ』は産毛のような薄いかげりだけに覆われていた。 ヘンな話だけど、なんとなく感動してしまったりする。 そのまま視線をひなの体の上に走らせてゆき、ひなの顔に辿りつく。 あれ?ちょっとすねてる?…僕の頭の中に?マークが舞う。そしたら、 ぼそっとひなが言う。 「せんぱい、ずるい…わたしばっか、はだかで…」 僕は「あ」と思いあたってあわてて服を脱ぐ。僕は初めてってわけ じゃないんけど、なにやら余裕がなくなってたらしい。シャツを脱ぎ、 スボンを脱ぎ、トランクスを脱いて裸になる。僕の『それ』はこれ以 上ないってくらい天を仰いでいた。それを目にして、ひなはちょっと びっくりしてるようだ。 「え、あの、そ、それがわたしの中に…?」 「あ、いやその、そんなに大きい方じゃないと思うし、その…ちゃん と濡らせば大丈夫だよ」 あんまり説明になってないような気もする。しかし、ひなは、『濡 らす』という言葉に反応してもじもじっとする。 (うう、すげーかわいい…) そんなひなを抱きしめて、僕の唇をひなの唇から耳もと、首すじ、 鎖骨、胸と走らせてゆく。両手でひなの乳房をもみしだきつつ、さら に、お腹、おへそへと舌を走らせ、だんだん『そこ』に近づいてゆく。 そしてついに『そこ』に到達する。僕は、包皮につつまれたクリトリ スに「ちゅ」っと吸いつき、れろれろと舌でいじめる。 「あ、あ、ふあ、あっ…やっ、はずかしっ…あっ」 すぐにひなが反応してくれる。うれしくなって、ちゅっちゅっと音 をたてつつ、さらに熱心に舌先でそこをねぶりながら、左手でひなの あそこを広げて、右指でぬるぬるといじる。 舌がクリトリスにあたるたびに、ひなは声を上げ、あそこからはと ぷっと愛液が溢らせる。 (くすっ、ひなって、けっこう濡れやすいかも) とかちょっと思ったりする。 ひとしきり舌と指でそこをいじめると、ひなのそこは蜜でぐしょぐ しょになって、ぽってりと充血してきた。そろそろかな…と思ってひ なの顔を見ると、上気しきってまっかになって、瞳をうるませていた。 そして、唇が動く。 「せんぱい…きて」 僕のボルテージが「上がらいでか! 」とばかりにずがんと上がる。 すっかり濡れそぼったひなの『そこ』に僕の『それ』をあてがう。 「いくよ、ひな」 真剣な顔でひながこくんと頷いた瞬間、僕はぐぐっと腰をすすめて ひなを貫いていた。そして、何かを引き裂くような感じがしたとき、 ひなが「ひぐっ」と声を上げた。 「ひな、大丈夫?」 目に大粒の涙を浮かべつつ、言葉が出ないのか、でもこくこくと頷 いて『大丈夫』と意思表示をするひな。でも、すごく辛そうな表情…。 大好きな娘とつながれるのはすごく嬉しいけど、その事でその大好 きな娘をひどい目に会わせてることに、僕の心はずきずき痛む。そし て『このまま続けてしまっていいのか』なんて考えてしまう。その考 えを読みとったかのように、ひなは、つらそうにしつつ言葉を紡ぐ。 「…やめないで、せんぱい。 最後まで、わたしをせんぱいのものにして…」 そして、ぽろぽろと涙をこぼしながら、僕にしがみついてくる。 僕は覚悟を決めた。自分が彼女を大好きだという事、そして彼女が 僕を愛してくれる事に胸を張ろうと、そう思った。 ぐっと力を入れて、さらにひなを貫く。こつんと、奥まで届いた感 蝕がする。ん、やっぱ、狭いんだ…。 「入ったよ、ひな…」 「あ…はい…。うれし…」 痛みに耐えつつ、でもちょっと笑顔をうかべるひなを、僕はぎゅっ と抱きしめて、頬や目尻にキスをする。僕の唇が触れるたびに、だん だん、ひなの表情がゆるんでくる。うれしくなって、どんどんいろん な所にキスをする。髪、鼻の頭、耳、首…。 何分そうしていただろうか、しばらく後にひなが僕に告げる。 「もう大丈夫だから、動いて…先輩に気持ちよくなってほしい…」 僕はゆっくりとひなを気遣いながら動く。ひなのそこは、血と彼女 自身が分泌した愛液とでたっぶりと濡れ、動くたびにちゅぷちゅぷと 音を立てつつ、僕をぎゅっと握りしめてくる。 (うわっ、気持ちいいっ…) 「ね、ひな、大丈夫?」 「あ、ちょっと痛い、けど、ん…まだ、大丈夫…」 ひなの胸のさきっぽや『そこ』を刺激しつつ、さらに動きつづける。 「あっ、なんだかじんじんしてきて…あっ、ああ、あっ」 ひなを気遣う余裕はなくなってきていた僕は、ひなの右脚をかかえ あげて、側位のカタチになってがんがんと動く。ひなの胸がたぷたぷ と揺れる。 「せ、せんぱいっ、も、もうだめっ、あ、あ、あ、あ、あああ」 「くっ、僕も、もう」 「あ、せんぱいっ、だめっ、抜いちゃだめっ、大丈夫だから、わたし の中に、中にぃっ」 そう言って、しがみついてくる。 「ひな、好きだよっ、ひな、ひな、ひなっ!」 「あ、せんぱい、せんぱいっ、あ、あ、ああ、ああ、ああああっ」 びゅくんっ! 僕自身から溢れだした白濁液がひなの奥にそそぎこまれてゆく。 「あっ、あ、あっ、あ、あ…あ、あふ、あ…は、はぁ…」 その後も、余韻に浸るように、ひなはしばらく声をあげていたけれ ど、僕が頬をなでているうちにだんだん落ちついてくる。 僕は、ひなの頬に両手をあてて、じっとみつめて、言う。 「ひな、大好きだよ…」 「うん、せんぱい、わたしも…」 唇を重ねる。そして、唇を離して見つめあって二人して照れる。 そうして、じゃれあってるうちに、二人とも眠りに落ちていった。 3. Epilogue --ひとつの朝-- 梅雨の合間、やさしく日が照る朝。 目をさますと、横でひなが眠っていた。両手を手の前にもってきて、 くるっとまるまってる感じ…しぐさがかわいいと思ってたけど、寝て るときもやっぱかわいいんだなぁ。つんつんとほっぺたとつつくと… あ、なんか、うれしそうにしてる。 ふと時計を見ると… 7時だ。もうちょっと余裕があるけど、ひなに 昨日と同じ服で研究室に行かせるわけにもいかないので、ゆすって起 こすことにする。 「ひな…ほら、起きて」 すぐに『ふにゃあ…』とてもいいそうな感じでひなが目をさます。 なんか、ぼーっとしてる。寝起きで頭がまわらないらしい。 「…ん…あ、あれ?せんぱい?」 「おはよ、ひな。目、醒めた?」 自分が名前の方で呼ばれたことで、昨日のことを思い出したのか、 ぱあっと顔に朱がさす。そしてぱっと起きあがってあわてる。 「あ、せ、せんぱい、わたしっ、あのそのっ、ええと…」 「ほらほら、『先輩』じゃないでしょうが。 昨日もなんだかんだ言って途中から『先輩』になってたしなぁ」 「あううう」 もう耳までまっかである。ほんと、かわいい。 ひなの言葉を待ってるとたぶん話が進まないので、僕はさっき思い ついたことをひなに言うことにする。 「でさ、ひな。大学に行く前に、いちど帰って着替えたほうがいいん じゃないか思うんだけど…どうかな」 「あ、は、はい。そうですねっ」 と、ひなはばっと立ちあがる。当然、はだかのまんまだ。 ぱぁっとまた赤くなって、ひなは僕に言う。 「あ、あのその、着替えるあいだむこうむいててくれます? せ…『祐くん』」 また、「祐くん」と呼んでもらえたことで、僕はにやけてしまう。 テレ隠しに、そのままだまってうしろを向いて待つ事にする。 こんなささやかなことが嬉しいってのはガキみたいだけど、なんだ か僕ららしいような気がする。「僕ら」…当然のように二人一組で考 えていることで、またテレる。 数分後。 「送っていくよ」 「あう、いいですよぉ。…ひとりで考えたいこともありますし」 苦笑してぱたぱたと手をふって断るひな。 僕はなんか頭によぎるものがあって、 「…後悔してる?」 と訊いてしまう。あいかわらずストレートすぎるかな、僕は。 「あっ、いえ、そ、そんなことなくて。あのその、なんてゆーか、 ひとりで幸せをかみしめたいとゆーか、そんな感じで…あうう」 まっかになってあわてるひなを見て、一瞬よぎったことはぱっと霧 散する。僕は、ひなの頭に「ぽん」と手をのせて、いーこいーこって 感じでなでながら、そして、今の正直な気持ちを告げることにする。 「なんか、勢いでって感じになっちゃったけど、ひなのこと、本当に 好きだから。…これからもずっといっしょにいてほしいな」 ひなも、ちょっと真剣な顔--まっかだけど--で僕の方を見て言う。 「あ、わ、わたしもですっ。ずっといっしょにいたいです」 そして、二人してくすっと笑ったあと、軽く唇を重ねる。 「ん、じゃ、またあと…輪講の時に、かな」 「あ、は、はいっ!」 元気よく答えて、ひなは部屋を出てゆく。 ぱたん、とドアが閉まったけど、ぼくはその前に立ったままだ。 (今年の夏は、今までとちょっと違うかなぁ) (でも、ひなは院試があるかぁ…でも、ちょっとくらい遊びに行ける といいよな。院試だったらまた教えてあげてもいいし…) そんな事を考えつつ、ひなの香りのするベットに戻ることにする。 一昨日までは思いもよらなかった、でも、今いちばん大好きなひな。 (こんど、どっかにいっしょにでかけようって言ってみよう) (きっと、楽しいだろうなぁ) ぼんやり今後を夢想しつつ、僕はまた幸せな眠りに入っていった。 おしまい